岩政大樹が書く「勝負強さ」にある表裏
理想的なサッカーを貫くこと、それを捨てること
「現役目線」――サッカー選手、岩政大樹が書き下ろす、サッカーの常識への挑戦
理想を追求する一方に持ち合わせた「鹿島スタイル」
鹿島アントラーズには伝統的なサッカースタイルがあります。4-4-2で攻守に主導権を握る……このシーズンもそのスタイルに磨きをかけ、多くの勝ち点を重ねていました。自分たちが勝つために作り上げたその理想のスタイルを追求し、3連覇を目指す中でその完成度はかなりのレベルに達していたと思います。
しかし、僕たちはこの大事な試合もその理想のスタイルを貫くことができたかというと、そうではありませんでした。
実は、当時の僕たちにはもう1つの「スタイル」がありました。それは、相手に一度主導権を渡しながら、そこから徐々に勝ち筋を見つけていくスタイルです。いつもいつも自分たちの理想のスタイルを貫こうとするのではなく、相手に流れを取られるようなときは、自分たちのそのいい時のスタイルに固執しない潔さがありました。
この最後の2試合は対照的な試合内容ではありますが、「勝負強さ」を語る上でとても興味深い事実があると思っています。
33節は、ホーム、カシマスタジアムでのガンバ大阪戦でした。ガンバ大阪はその頃、超攻撃的なスタイルでたくさんのタイトルを獲得していて、その年も圧倒的な得点力で僕たちと優勝を争っていました。33節を僕たちと勝ち点3差の3位で迎えたガンバも強いモチベーションでカシマに乗り込んできました。
試合は前半こそスコアレスで終えたものの、晴天の中、ホーム最終戦の素晴らしい雰囲気に後押しされて、僕たちはそれほど硬さを見せない戦いができました。後半にはでき過ぎなくらい次々とゴールが生まれ、終わってしまえば5対1の圧勝でした。勝負所で、自分たちのスタイルがよく出せた理想的と言える試合でした。
一方、迎えた最終節。2位川崎フロンターレとの勝ち点差は2のままで、勝たなければ自力優勝がかなわない状態での一戦は、アウェイで浦和レッズとの対戦でした。レッズには優勝の可能性は残されていませんでしたが、アントラーズにとって宿敵と言えるレッズとのアウェイ戦は、最高の舞台での最悪の相手と言えました。